「医者、っつーのも、大変だな」

深夜の糸色医院。
偶々通り掛かったら微かに電気が付いていて。

まさか、とは思ったが案の定、思い主は中に居た。

とっくに日付を超えている。
元々流行ってない医院だ。
そんなに立て込んだ仕事も無いだろう、と思って居たが、
こんな時間迄残る程の仕事が、思いの他有るらしい。

「季節の変わり目ですからね、風邪をひかれる方が多いんですよ」

事も無げに、命は呟いた。
机には膨大な量の資料。
一体何時整理が出来るのだろうか。

「お前一人で片す量じゃないだろ、看護婦とかもう帰らせたのか?」
「えぇ、明日に疲労を残すと善くない。其れこそ、彼女達が患者に成り得るケースも有りますからね」

――――そう成ったら最悪です。

命は溜息交じりに呟く。

命の言ってる理屈は分かる。
だが正しいとは思わない。
命を置いて帰っていった看護婦達に、少しだけ、腹が立った。
彼女達はこいつがこんな時間迄一人で仕事をしてる事を、知ってるんだろうか。

命は、何時もそうだ。
自己を犠牲にする。
自己を犠牲にした場合の最良の方法を考える。

其処に、自分を労わると言った考えは、無い。

自分が患者に成り得る最悪のケース、と云うのを考える脳味噌は無いんだろうか。
…無いんだろうな。
少しでもそんな脳味噌が有れば、こんな事には成ってないか。


「平気なのか?」
「えぇ。こんな生活パターンが何時迄も続く訳じゃ有りませんからね、踏ん張り所、って奴ですよ」

資料を見詰めていた命の視線が、自分に向けられる。
そして、何時もより多少疲労した表情で、命は、微笑んだ。

「こんな時間に珍しいですね、景兄さん」
「まぁな」
「何か急用でも、有ったんですか?」
「いや、たまたま通り掛かっただけだ」

命は、手に持っていた資料を置くと、腰を上げた。

「お茶でも、淹れましょうか」
「いや、忙しいんだろ?すぐ、帰るから」
「私も丁度息抜きがしたいと思ってた所なんです。ちょっと待ってて下さいね」

命は振り返り、微笑んでいた。
其の表情を見て、先迄感じていた怒りが少しずつ治まってきた。

自分が此処に来た事で、命の張り詰めている精神を少しだけでも和らげる事が出来たのだろうか。

人間根を詰めすぎるのは善くない。
何度も命にそう諭すが、結局アイツは其れを守りはしない。
物腰が柔らかく見える癖に、存外に意固地だ。


「はい、景兄さん」

顔を上げると、命がお茶を差し出していた。
短くお礼を言い、其れを受け取る。


「命、顔が疲れてるぞ」
「分かりますか?余り、寝てないんですよね」

糸色医院の開院時間は午前九時。
今は深夜の一時頃。

十分な睡眠が取れている筈無い。

「あんまり根を詰めすぎるのは、」
「善くない、ですよね。分かってはいるんですけど…、」

命は自嘲する様に、小さく笑った。

「性分、なんですよ。景兄さん」
「まぁ、お前は昔からそうだからな」

窓の外から、雨の音が聞こえる。
来る頃には降っていなかったが、急に振り出した様子だった。
命は顔を上げ、窓を見詰めた。

「明日は雨らしいですからね」
「お前、そう言えば小さい頃は雷が苦手だったよな」
「…、其れは昔の話です」

少しむくれた様に言葉を返す命に口元が緩む。

可愛い。

そう思った。

「雷が鳴ったら、所構わず俺に抱き付いて着てたよなぁ」
「だから、それは昔の話です!」

ますますムキに成って怒る命が可愛くて仕方なかった。
普段凛としているだけに、このこどもっぽいギャップは、益々命を可愛く見せる。

こんな表情を知ってるのは、俺だけで善いと、思う程に。

「今も雷が苦手で泣いたりしてんじゃないのか?」
「有り得ませんから」
「兄弟の中でお前だけだったもんなぁ、雷嫌いなのは。望は怖がってなかったのにな」
「景兄さん、しつこいですよ!」

怒った様に命は俺を睨んだ。
真っ赤な顔して。

――――ちょっと、やり過ぎたか。

そう思い、後頭部を掻いた。

そもそも命は仕事の途中だ。
俺が居たら仕事も手が付かないだろうから。
命の健全なる睡眠時間の確保の為。
長居は出来ないな。

「雷も怖くないって言うなら、成長したんだな」
「当たり前です」
「じゃあ、雷が鳴っても平気みたいだから、そろそろお暇、しますか」
「あ、帰るんですか?」

一瞬、縋る様な表情を見せる。
こんな顔をするから、つい帰れなく成るんだ。
無意識なんだろう。
だからこそ、命は、タチが悪いんだ。

この儘残っておきたい気持ちをグッと抑える。

『命の健全なる睡眠時間の確保』

此れを優先させなくては。


「未だ仕事残ってんだろ?」
「えぇ」
「ちゃっちゃと仕事片せよ」

腰を上げて命の髪を撫でる。
命は露骨に視線を反らし、俯いた。

どんな表情しているのか迄は分からないが、耳が真っ赤だった。
照れているんだろう。

そう思うと、無性に抱き締めたく成った。

「雷、怖くないんだろ」
「何度も、言わせないで下さい」
「其れなら、一人にしても、安心だな」
「私は、こどもじゃないんですよ?」

今度はそっぽを向かれた。
解り易い反応に口角を上げて、命から離れようとした其の時、


唐突に、雷が落ちた。



命が小さく声を上げる。
俺は、咄嗟に、命を抱き締める形に成っていた。

意図的に、では無く、無意識に。
身体が勝手に動いていた。

小さい頃から何度も何度も、繰り返した
『雷が鳴ると怖がる命を抱き締める』
と云う行為。


何時もは抱き締めただけで何らかの方法で拒む命が、今日は俺の腕の中で大人しく抱き締められていた。


一瞬の無言。
雷が次に落ちる気配は無かった。
一時的な物だったらしい。
後には、雨の音だけが、響いた。


何だか気不味く成って、口を開く。


「何だ、怖いのか?」
「…別に、驚いただけです」

そう返された物の、命は俺の腕を振り解こうとはしなかった。
俺も腕を解く事はしなかった。

只、呆然と抱き締めている体勢に成ってしまう。
互いに動く事は無い。


「雷、一時的な物だったらしいな、」
「そう、ですね」

再び沈黙が訪れた。

ふと、視線を命に落とす。
漆黒の髪の中、白く浮かび上がる様な、項が覗く。
只純粋に、綺麗だと、思った。



雨は、止みそうに無かった。
傘は、持ってきて居ない。
この儘では、帰れない。

そんな言い訳にも成らない、下手な言い訳を思いつく。



命の漆黒の髪がハラリと揺れる。
抱き締めた華奢な身体が、微かに甘える様に、摺り寄せられた。
躊躇いがちに、摺り寄せられた箇所から、命の体温が伝わって来た。


――――欲情、した。


先迄考えていた事なんて、全て忘れて、
目の前に居る存在に、欲情、する。


抱き締めた儘、白く浮かび上がる首筋に、唇を落とす。
命の身体が小さく震えた。
其れでも、拒否されなかった。

いいのか、なんて聞かない。
聞いてやらない。
そんな事聞いたら、素直じゃないコイツは首を縦に振らないだろうから。
実際今更止められても、もう、止まれなかったが。


欲しいと思ったら、止まる事は出来ない。


そんな俺の性質を、命は嫌と云う程理解している筈だ。
其れでも、俺の腕を解かず、言葉を紡がないのは、命の、――――狡さだ。


ご丁寧に着用されている白衣のボタンに手を掛け、外し、中のシャツのボタンも外した。
シャツの隙間から覗いている素肌に手を差し入れ、木目細かい肌を何度も撫でた。

「景、兄さんっ…、」

震える声で、小さく、名を呼ばれる。
愈々、欲しくて、堪らなかった。

片手で細い腰を抱き、命の身体を机に押し倒した。
バラバラと資料が落ちる音がする。

「資料が、」

命は焦った様に、落ちた資料に視線を移そうとした。
其れを遮る様に、命の唇にキスを落とす。

「んっ…ぅ、」

今は自分以外の何も、見て欲しく無い。
自分以外の何も、考えて欲しく無い。

そんな余裕、粉々に、砕いてしまいたい。

命の羞恥心をわざと煽る様に、逃げようとする舌を絡め取る。
重なった互いの唇の端から、湿った水音が聴こえた。


「ふっ…ぅ、」


執拗な口付けを施した儘、布越しの性器に、手を這わせた。
其処は微かに張り詰めている。
命がビクリと身を竦ませる。


「ぁ、や…」

命も、俺を欲している。
其れを直に感じ取り、歓喜に、胸が震える。

性急に、ベルトを外し、下着ごと、引き剥がした。


「命は…本当敏感だよな」
「あっ…!」

驚いた様に、命のくぐもった声が聞こえる。
無意識なのか、背中を強く掴まれた。

緩急を付けて、命の性器を擦ると、苦しそうな声が漏れる。
身体を小さく震わせ、快感に堪えている。

「っ…ぅ、ん…、」

唇を離し、命を見詰める。
命は俺の視線に気付き、咄嗟に顔を背けた。

「命、」

頭ごと抱き締め、命の耳元で名を呼ぶ。
其の瞬間、命の口から短い喘声が上がる。

手にしていた性器も、反応を示す様に、ビクリと震えた。

身体は正直、なんて下手な官能小説みたいな事を言うつもりも無いが、
正に、其れを素でいく奴だ、こいつは。

男同士だから、反応が面白い程、分かると云うのに。
何度も何度も欲して触れた身体だ。
何処が悦いのか、どんな風にすれば悦いのか、分かり尽くしている。

其れでも命は、
何処迄も、初心な儘だった。

快感を逃がそうとして、首を小さく横に降り、俯いている命は、酷く儚げに見えた。

そんな様子に、己の中に沈めている支配欲・征服欲が頭を擡げる。


「っ…けい、にぃ、さん…」

切れ切れに聞こえる、甘えた様な、掠れた声。
其れは何だか酷く、下半身に響いた。


全く、嫌に成る。
嫌に成る程、欲しい。


だからと云うのも変な話だが、ワザと焦らす様に命が反応する箇所を避けて、性器を弄る。
命の白い太腿が、ビクビクと、震える其の光景を見て、更に劣情を煽られる。

『好きな子程、苛めたく成る』

なんて、まるで、こどもみたいだ。
存外に、命を引き合いに出されると、自分は未だ未だ未発達だ。
大人気無い、こどもみたいな、兄。


「…ん、ぁっ…あ、…」

命の忙しない吐息が鼓膜を揺らす。
こんな曖昧な愛撫でも感じて仕舞う程、命の身体はもう昂ぶっているらしい。

雨の音はもう、聞こえて来なかった。

自分の視界にはもう、命の姿以外映らない。
自分の聴覚はもう、命の声以外聴こえない。


命と云う存在に、溺れる。



擦っていた性器から先走りの液がトロトロと零れてくる。
其れを狡猾剤代わりにし、命の最も反応する部分を刺激した。

「ひっ…!」

急に齎された強い快感に命は身体をギュッと萎縮させた。
視界に映る白衣が、妙に背徳的で、其れが更に、俺を煽った。

痛い程其処を苛めると、命は堪える様に歯噛みし、首を横に振る。

「っ…ぅ、やぁ、…ぁ…!」

誰も居ない医院に響く、命の喘声。
最小限に抑えている様だが、無音のこの世界に其れは酷く反響した。

「ぁ、も…もぅ、ぃや…!いや、ですっ…、」


命は俺の肩口に顔を埋め、受け止め切れなかった強い快楽に善がり、泣いた。
肩口が、命の涙で、熱く濡れていく。
無意識に、命の太腿に押し当てていた俺自身も、目の前に居る命の痴態に、限界近く迄張り詰めて。


――――したい。
喰らう様に、犯したい。


そう思った瞬間、頑なに目を伏せていた命が顔を上げた。
視線が、絡み合う。

痛ましい程涙が堪った潤んだ瞳で、ジッと見詰められる。
目の縁が、赤い。

嗚呼、そうか。
命の発せられない言葉が、嫌と云う程十分に伝わって来た。


『目は口程に物を言う』。



***



以心伝心だ、なんて思い、命の身体を机に乗り上げさせた。
其の瞬間、又資料がバラバラと床に落ちた。

今度は命も其れに気を取られる事も無く、ギュッと俺を抱き締めて来た。

性急に、命の先走りの液を指に塗り込み、後孔にゆっくりと指を埋めた。
命は何時もこの時、苦痛を感じる様で、性器が萎える。

そして堪える様に、顔を歪ませる。

俺はこの顔を見るのが、――――好きだ。
屈折してるとは思うが、如何しようもなく、そそられる。


「ぅ、あ…!くっ…、」


命の細い左足首を掴み、机に引き上げ、秘部を晒す体制を取らせる。
命は驚いた様に目を見開き、抗議する様に、睨みつけてきた。

最も、そんな潤んだ目で見つめられても、煽られているとしか、思えなかったが。


「仕方無いだろ、後々、キツいのはお前なんだし…」

本当ならこの儘、何の前戯もせずに、犯してしまいたいが、そんな事したら、命が辛い。
其れを命自身も努々理解してる筈だが、この体勢がよっぽど嫌らしい。

命は何時もの様に、身を捩って、微かな抵抗を示した。


「ほら、暴れるなって」
「やっ…、も、いい、です…早く、」
「早くして下さい、って?…大胆だな」


喉の奥で含み笑いしながら、命の太腿に口付ける。
其のほんの僅かな刺激だけで、命の身体はビクッと震えた。

其の反応に気を善くして、命の太腿を舐め上げ乍、後孔を刺激する。

一本…二本…徐々に指を増やしていく。


「あっ…ぁぁ…景兄、さん…ぃや…、舐め、ないで…っ」


命の恨み言を無視して、太腿を愛撫し続けていると、命の太腿に薄い痣の様な物を見付ける。
不審に思い、小首を傾げる。

「痣、出来てるぞ」
「それ、は…っ、」
「医者の無用心、って奴か?こんな変な所にぶつけるなんて、お前もちょっと抜けてるよな…」
「ちが、いますっ…、」

命の日に焼けていない白い太腿に、其の痣は何だか生々しかった。
こんな所に痣付けるなんて…こいつは、キッチリしてる癖に、昔から何処か抜けている。

「…っ…そもそも、」
「ん?」

命が何か言いたげに口を開く。
最も、荒い吐息に邪魔されて、上手く言葉は聞き取れる自信が無かったが。

「兄さん、の…所為じゃないですかっ…!!」
「俺が?何で?」
「其れは、景兄さん…が、この間…付けて、」

そう云ったっきり、命は黙ってしまった。

でも伝えたい事は十分伝わった。

「いやだって…、云ったのに…聞いてくれなかったじゃないですか…っ…!」

この痣は、俺の、命に対する、所有の、証。
其れを認識したら、身体の血が一気に、逆流して来た。


――――嗚呼、もう、駄目だ。

「兄さん…?!」

命の体を机に押し付け、後孔から指を引き抜く。

「っう、…!」

命が体を反らした弾みで、更に資料の山がバラバラと落ちていく音が、思考の片隅で、聞こえた。

そして、
限界迄張り詰めていた自身を、命の内部に、飲み込ませた。



***



「ひっ…あぁ…!」

甲高い、悲鳴染みた、喘声。
命の頭ごと抱き締め、唇を、重ねた。

「ふっ、んぅ…んくっ、…」

重ねた唇の合間から零れていく、くぐもった声が鼓膜を、揺らす。

堪らない。
堪らなかった。

舌を絡ませると、従順に其れに答え、求めて呉れる。
まるで、『もっと』と、強請る様に。


完全に熱に飲まれた思考の中で、
ふと、――――命の白衣、皺に成るな、と今更乍に思った。

後で不機嫌な表情を見せるこいつの姿が、目に浮かんだ。


「ん…ぅ、ふぁっ…、」
「命…可愛い」

指通りの善い癖の無い髪を何度も撫でた。
サラサラと指の隙間を、漆黒の髪が零れていく。

漸く、唇を解放し、命の細い腰を掴み、突き上げた。


「ひっ…!やっ…やだぁ…あぁ…っ」

反らされた白い首筋。
其処に喰らい付く様に、舌を這わせた。

跡を付けると怒るから、舌を這わせ、只、舐め上げた。

「けい…にぃ、さんっ…、」

強く打ち付ける度に、机が軋んだ。
机の上に山程積もっていた資料も今は全て床に散乱している。

背中に回された命の白い腕。

規則的に聴こえる喘声。
体温。
音。
湿った、
音。


「あっ、ん…ぁあっ…兄さ…んっ…、」

薄い作務衣に爪を立てられ、中の皮膚が、歪む。
小刻みに震え続ける、白い、太腿。

命の、細い腰が微かに、揺れる。
無意識下での命の痴態に、律動は激しさを増す。
繋がった内側が、蠢く様に、収縮を繰り返す。

「ぁ…も、もぅ…!ぁ、…あぁ…!」

華奢でしなやかな愛しい身体の内と外が魅せる、淫らな反応。


「…命、っ…く、」
「や、ぃやっ…、もぅ…も、うっ…イ、っ…イく…!」

命の言葉に、強く腰を打ち付けて。

其の瞬間、命が精を吐き出す。
其れに釣られる様に、俺も命の中で吐き出した。



***



「あつ…」

情事後、命が一番に漏らした言葉。
そして胸板を押し返された。

命の内部から自身を引き抜くと、ドロリと、精が溢れてきた。

「あ、ゴム…、」
「又、忘れたんですか…殺しますよ?」

手遅れにも程が有る。
完全に熱に飲まれた為の、惨事だ。
何も俺だけが悪い訳じゃない。

「事前にお前も一言言えばいいだろ」

命は押し黙った。
多分、其れを思いつく余裕が無いんだろう。
だったら、尚更、お互い様じゃないか。


情事後だって言うのに、艶っぽい雰囲気なんて、微塵も無い。
命はそういう事を、嫌う。
否、多分、苦手なんだろう。
どんな表情をすれば善いのか、分からないんだろうと思う。

其処が又、初心で、可愛かったが。

「嗚呼、資料がバラバラですね…」

命は先迄あんなに強く抱き締めてた俺の身体を押し返し、体勢を起こした。

そして資料を拾おうとする其の矢先、自分の白衣を見渡し、驚いた様に目を丸くした。


「け、景兄さん…」
「如何した?」
「白衣に…白衣に私の…!」

其れ以上は云えないらしく、まるで死にたがりのあの弟みたいな表情をして、俺を見ていた。

「だから、如何したんだよ?」

ひょい、と命の白衣を見ると、白衣は命の吐き出した精液によって、汚れていた。

「お前の精液掛かってるなぁ」
「ストレートに云うなぁぁあ!!」

益々あの死にたがりの弟みたいだ。

「完全に乾く前に洗えば大丈夫だろ。替え位、有るんだよな?」
「其れは…有りますけど、」
「有りますけど?嗚呼、お前、自分の精液洗うのが嫌なんだろ」
「…洗いますよ!勿論!」

命は白衣を脱ぎに掛かった。
其の腕を制して、命の白衣に掛かっている精液を指で掬う。

「景兄さん…?!」

驚く命を他所に、指に付着した命の精液を観察してみた。

「濃いな…お前、堪ってただろ」
「なっ…!!」
「道理でな。今日のお前、何時もより積極的だったもんな」

口元を上げて、覗き込むと、命は口を完全に言葉を失ってしまったみたいで、只口をパクパクと打ち付けるばかりだった。
命の白衣に掛かった儘に成っている少量の精液が、蛍光灯の光を浴びて、ヌラヌラと卑猥に光っている。

其の光景は、

「見ように寄っては、綺麗だよな」
「はい?」
「一種の芸術に値するかもな」

精液が付着してる指を命の眼前に差し出すと、命は露骨に嫌そうな表情を見せた。
だから、其の指を俺は咥えて、命の精を口に含んだ。

美味い訳、無い。
苦くて、生臭い。

命の物で無かったら、口に含もうなんて、決して思えない。
だが、そんな何処迄も生々しい人間的な液も、命のだと思うと、何故か、甘く感じた。


「…っ、あなたって人は…!」

眼の前で自分の吐き出した精液をしゃぶられ、命は思い切り不愉快そうな表情をしていた。

「忙しいのも分かるけどな、たまには自己処理も必要だぞ。まぁ、俺からされたいって云うなら、何時でも大歓迎だがな
 其れともお前、若しかして俺からされるのを待ってて、こんなに堪ってたのか?可愛いなぁ、命」

命を頭ごと抱きしめ、頭を摺り寄せた。
命の癖の無い髪から、微かに善い香りが香る。

「…この、変態兄がー!!」

かなり強い力で突き飛ばされて、眼を丸くする。
命は完全に怒った様子で、俺を完全に押し退けて、部屋を出て行ってしまった。

一人残されて。
不意に雨とは異なる水音が、聞こえてきた。

――――命が白衣を洗ってるのか。

そう感知すると、何だかちょっかいを出したくて仕方無くなった。
もっと機嫌を損ねるのは眼に見えているのに。
白衣を洗ってる命の元に駆けつけた場合を想像する。
想像の中だけでも、命は十分に可愛かった。
口角が上がった。

――――怒るかな…怒る、だろうな。

笑いの発作が不意に襲ってきた。
喉元から押し殺し切れなかった笑い声が、漏れた。


湧き出てくる悪戯心を抑えるべく、
堪える様に、

唇を、舐めた。




景命処女作…初っ端からエロスは難しかった…
何となく景命のエロスって言葉少なめな感じのイメージ。
言葉攻めでネチネチと、って感じじゃなくて…何つーか、こう、
命が景兄さんのツボを無意識で押してしまい
景兄さんが臨界点突破!!してガッツンガッツン…嗚呼もう黙ります。
下品ですいません。ブラウザ越しにエロス奈菜エロス奈菜の大合唱が聞こえて来ました。